道の駅と行政、町民ががっちりタッグを組む
道の駅もてぎ in 栃木
「道の駅は誰のものか?」理想論に留まらず、
その答えを行動で突き詰め続けた「成功のポイント」
茂木町長 古口達也氏
国土交通省が選ぶ「全国モデル『道の駅』」にも選ばれている栃木県の「道の駅もてぎ」。6次化の取り組みによるオリジナル商品が数多くヒットし、昨年開催された「道-1グランプリ」でも、「ゆず塩ら〜めん」が初代グランプリを獲得するなど、とにかく話題に事欠かない。
売り上げも年々上昇し、2年後の目標としていた「売上高10億・100人の雇用」も今年のうちに両方とも達成する勢い。道の駅もてぎは一つの成功事例であることは間違いない。
その成功のポイントは、道の駅の運営のトップも兼任する茂木町長 古口達也氏の考え方、そして、これまでの道の駅の取り組みの中にあった。
関わる人全てが「共通認識」をもつ。
道の駅もてぎには3つの理念がある。「訪れる人のための道の駅」、「町民のための道の駅」、そして「働く人のための道の駅」だ。これらを実現させるために古口町長は「とにかく、関わる人全てがこの理念を共通認識として理解していなければならない」と話す。「道の駅の理念を実現するためにも、やはり『お金』が大事です。道の駅はただの村の直売所であってはいけません。きちんとした企業として利益を出し、地域に税金を払うことで地域の経済が潤います。そして、利益を出すことで道の駅で働く人にも還元され、一生働いてもいいと思える職場にならなければなりません。」
道の駅もてぎの利益の1/3は投資へ、1/3は留保に、そして残りの1/3は関わる人みんなに配分している。
道の駅の運営は基本的に第三セクターである(株)もてぎプラザが行っているが、役場の職員を道の駅に常駐させ、行政も二人三脚で道の駅の運営に関わっている。
もともとが商人であった古口町長は、道の駅の運営についてはこのように考えている。「道の駅のスタッフだけではなく、町役場の職員も一人一人が自分たちのこととして道の駅の理念を理解し、『稼ぐ』ことを考えるようにならなければ、道の駅の運営は成功しません。『道の駅もてぎが駄目になる時は、茂木町も駄目になる時だ』と伝えています。」
1〜3年目の茂木町の職員は研修で、販売員として道の駅の店頭に立つ。「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」と大きな声で挨拶しながら、頭を下げる。10円の利益を出すのがどんなに大変なことか。自分の職場に戻った職員は、道の駅担当部門だけではなく、総務・企画など、通常業務で直接利益を生みにくい部門に至るまで「どうしたら業務の中で利益を生み出せるか」ということを意識するようになる。
多くの道の駅が、自治体と「商売」の観点で衝突する中、道の駅の運営において「商人の発想を持った町の職員」がいることは、それだけで強い追い風になり得る。
そして、町の人々にも、自分たちの道の駅として誇りを持ってもらうことも大きなポイントだ。
道の駅もてぎのオリジナル商品は、ラベル、パッケージからチラシなどのPRに至るまで女性目線の、一貫したデザインにしている。自分たちの作ったものが見た目にもいい商品になることで、町の人々がまずお土産として購入するようになり、お土産を渡された町外の人々へも口コミのように評判が広まった。そうやって商品の評判から、道の駅に注目が集まり、自然と町の人々も「自分たちの道の駅」として誇りを持って関わってくれるようになった。
茂木町では、道路・橋とともに「道の駅」の機能・役割についても、学校教育の中で取り上げている。こういった取り組みも、町の人々が道の駅を理解するのに役立っている。
「道の駅は誰のものか?」理想論に留まらず、
その答えを行動で突き詰め続けた「成功のポイント」
アイデアはボトムアップで、実行はトップダウンでスピーディーに。ヒットしたら大騒ぎすることも大事。
道の駅もてぎでは、新しい商品を考えた時には、採用するかどうかは従業員の投票で決まる。もちろん最終決定は町長が行うが、投票の結果が最も尊重される。むしろ町長が推したものの方なかなか通らないくらいだ。「私はハンコを押すだけですよ」古口町長はそう言って、少し寂しそうに笑う。
しかし、やると決まったからには町長が責任を持って、実現に向けてすぐに動き出す。町と道の駅のトップを兼任しているからこそ、町への許可待ちなどの余分な時間をとられることなくスピーディーに動くことができる。
こういった中で作られた「おとめミルクアイス」、6次産業化の取り組みの中で始まった「もてぎ手づくり工房」の商品群、道-1グランプリの初代グランプリを獲得した「ゆず塩ら〜めん」など、道の駅もてぎはこれまで、数々のヒット商品を連発している。
十石屋「ゆず塩ら〜めん」(写真左) もてぎ手づくり工房「もてぎのえごまドレッシング」(写真右)
しかし、ずっと順風満帆だったわけではない。
2011年の東日本大震災の後、道の駅もてぎにも大きな影響が出た。二期連続で売上高の前年割れ。開業以来初めての前年割れだった。関係者全員が何かしなければと、とにかく動いた。
毎年必ず何か大きなことに挑戦した。今や会員数3,000人を超える道の駅のファンクラブ「もてぎすきだっぺクラブ」の創設、「もてぎ手づくり工房」、そして「バウム工房ゆずの木」。近年の大きなヒットは全てこの震災後の取り組みから生まれている。
「バウム工場ゆずの木」のバウムクーヘン。「チーズインバウムクーヘン」や「ソフトバウムクーヘン」など、種類も豊富。
その陰にはヒット商品の何倍もの失敗がある。「大事なのはヒットした時に大騒ぎすること。(古口町長)」
成功したことを周囲に強く印象づければ、そのあとも自ずと注目されるようになる。そしてそのタイミングで人気のないものは「ひっそりと」無くしていく。商品の売り出し方と同様に、商品の「しまい方」も実は大事だと古口町長は話す。苦しい状況でもスクラップ&ビルドを繰り返し、ヒット商品を育ててきたのだ。
「道の駅は誰のものか?」理想論に留まらず、
その答えを行動で突き詰め続けた「成功のポイント」
結局、建物でも、立地でもなく、運営の工夫でしか人は呼べない。
町役場の職員として、道の駅に常駐している堀江順一氏。道の駅の実務を担当する堀江氏は、道の駅についての講演を依頼されたり、他県の新しい道の駅の検討委員会のメンバーとして招かれたりすることも多い。 「新しい道の駅の構想をお聞きすると、建物や立地の理想論が多いように感じます。建物にこだわっているからとか、目の前を通る道路の交通量がこれだけあるから人が呼べる、と。でも、結局それらではお客さんは呼べません。大事なのは運営の工夫のみです。(堀江氏)」
茂木町役場 堀江順一氏
例えば、道の駅もてぎの最初のヒット商品となった「おとめミルクアイス」は、道の駅を訪れたバスガイドさんに無料で配ることから始めた。
おとめミルクアイス
バスガイドさんがお客さんに話し、お客さんがまた他の人に話す。こうやって話題になってテレビなどのメディアにも取り上げられるようになったのだ。このように、アピールするターゲットを工夫するだけでも、大きな違いが出る。
また、「道の駅で大事なのは、そこでしか買えないもの、体験できないことがあること。道の駅に行くことは『プチ旅行』です。だから、小さい町の道の駅の方が実はやりやすいのではないかと最近思います。『プチ旅行』を演出するという意味においては、町の全てを道の駅に詰め込みやすいというのは大きなメリットです。(堀江氏)」
道の駅からは、「規模が小さいから、行政だから難しい」という声も聞かれることが多い。
しかし、工夫次第では堀江氏の言うように、小さい町であることはメリットになり得るし、自治体名でメディアにアピールできるのは行政ならではのメリットである。
置かれた状況に工夫を加えて活かすことが、現状を変えるための方法なのではないだろうか。
道の駅もてぎの成功のポイントは、
1.従業員、町職員、住民が道の駅に対して「共通認識」をもったこと。
2.アイデアは従業員の意見を尊重し、実行は町長自らが率先してスピーディーに動いたこと。
3.運営の工夫を積み重ね続けたこと。
つまり、道の駅に関わる全ての人が道の駅を自分たちの問題として考え、取り組み続けた結果だとも言える。言葉にすれば簡単に聞こえてしまうが、強いリーダーシップと、それに続く人々との間の強い信頼関係がなければ、道の駅もてぎのように取り組みを続けることは難しい。
古口町長は「従業員にしても、町の職員にしても、まだまだやれることがある」と話す。
そして、町長自身、道の駅でやりたい事もまだまだたくさんあるそうだ。
「これから目指すべきは『神社仏閣』。訪れた人が気持ちよくお金を払える場所にしていきたいと考えています。あ、そうそう、神社といえば、町のキャラクター『ゆずも』をモチーフにしたその名も『ゆずも大社』も作りたいんです。でも、ここ数年ずっと言い続けているんですが、誰も賛同してくれません。「出雲大社」のある島根の県知事とは話がついているんですけどねぇ…(苦笑)」
「ゆずも大社」ができるようになる頃に道の駅もてぎは、本当の完成を迎えるのかもしれない。
茂木町キャラクター『ゆずも』