Posted:2019-3-20

vol.4

町に「住みたい」価値を提供する

道の駅ましこ in 栃木


  • 道の駅ましこ

道の駅が移住・定住の相談窓口に

東京から車で約2時間、栃木県の南東部に位置する益子町。町の中心部から少し足を伸ばせば里山風景が広がり、1年を通して果物や野菜が豊富だ。そして「益子焼」の産地として特に知られている。
焼物やものづくりが盛んな町であるため、以前から焼物作家を中心として、多くのクリエイターが移住してきていた。近年ではクリエイターだけではなく、飲食店などを開業する人も増えているという。
移住・定住の専門窓口を設けている自治体も増えているが、この益子町では「移住サポートセンター」の窓口を、町内にある道の駅ましこ内に設けている。
今回は、道の駅ましこで行われている取り組みの中から、今後、地域の「移住・定住」拡大に向けて道の駅に期待できるポイントを挙げていく。

01訪れやすく、自然と情報に触れられる窓口


  • 窓口が道の駅にあったから、益子町に移住できたと話す塩田さん。手には、益子町産のベーコンと味噌を使ったピッツァ「セオトンタ」。

  • 道の駅の総合案内カウンターに空き家情報を掲示している。

同じ栃木県内の那珂川町に住み、北関東を中心を販売エリアとして移動販売のピザ店を経営していた塩田真司さん。道の駅ましこでも時折営業していた彼は、2年程前に益子町に移住、そして昨年には町内にピッツァのお店「ピッツァリア・デルフィーノ」をオープンした。「普段から仕事でよく訪れていた道の駅に空き家の情報が出ていたのが、移住のきっかけの一つです。その後、店舗の空き物件も道の駅で教えてもらうことができ、念願のお店をオープンすることができました。」と塩田さんは話す。
「移住サポートセンター」は町役場の窓口であるが、道の駅のインフォメーションカウンターにある。窓口を担当する、益子町役場企画課(移住・定住促進担当)の島﨑恭美(くみ)さんによれば、買い物や休憩のために道の駅を訪れた人が、掲示してある町内の空き家情報などを目にして問い合わせに来ることが多いそうだ。移住の意思はまだ固まっていないが少し移住に興味がある、という程度の人でも気楽に話を聞きに来ることができるのが、道の駅に窓口があるポイントの一つ。また、土日や大型連休の間も窓口が開いているのも重要なポイント。平日に相談に訪れるのは60代のセカンドライフを考えている層が最も多いが、土日などはやはり、平日に仕事をしている30〜40代の夫婦や家族連れが多く訪れるという。

02移住経験者の視点を活用する


  • 道の駅ましこの神田支配人。最終的には北海道への移住を考えていたが、一度住んだ益子町が気に入って移住することにしたという。

  • 移住経験者の鈴木さん。移住希望者向けのモニターツアーなどを担当する。陶芸作家としての一面も。

全国「道の駅」連絡会と「NPOふるさと回帰支援センター」が昨年行った調査によると、アンケートに回答のあった418駅のうち約10%の道の駅において駅長がI・Uターン移住者であり、20%の道の駅においてスタッフがI・Uターン移住者であった。
道の駅ましこの支配人、神田智規(とものり)さんも実は、富山県から益子町の魅力に惹かれて移住した1人。また、スタッフの鈴木恵深(めぐみ)さんは、東京から陶芸作家を目指して益子町に移住し、現在は作家活動も続けながら、道の駅のスタッフとしても活動している。I・Uターン移住経験者の視点は、町の魅力を外側からも把握することができるため、町の外へその魅力を伝えることにも大いに役立つ。また特に移住サポートセンターの窓口がある道の駅ましこの場合、彼らは、窓口を直接担当する訳ではなくとも、移住の先輩として機会がある度、移住希望者に、移住するメリット、そしてデメリットも含め正直にアドバイスしている。正直に伝えることは移住希望者の不安を軽減することにも一役買っている。

03道の駅が開業や商品開発をサポート


  • パッケージデザインを道の駅スタッフが提案して、売り上げが大きく上がった例も。

  • 陶芸作家でもある前述の鈴木さんが作る「はにわ」のガチャガチャ。試しに販売したものが、今や大ヒット商品。

益子町は元より、移住してきて工房を構えたり、お店を開く人も多く、所謂「よそ者」への抵抗が少ない町なので、移住者の独立開業がしやすい土壌があるとも言えるが、それでも、独立開業をしようという人には様々な不安が伴う。そういった人のために「移住サポートセンター」の窓口では町の補助金など、開業のための情報提供も行っている。
また、事業を始めるにあたっては、商品の試作や試験販売などを行いたいところだが、個人に施設や場を提供してくれるところを探すのは難しい。しかし道の駅ましこでは、運営する農産物加工所を、商品の試作などのために町民に貸し出したり、道の駅の売場を開発商品の試験的な販売の場として利用してもらったりといった形での支援も行っている。完成した商品も、売場で販売することはもちろん、パッケージのリニューアルなど、道の駅のスタッフが、より売れる商品になるようにアドバイスする例も多い。

町に「住みたい」価値を提供する道の駅


  • 観光案内も移住相談もワンストップで行える、道の駅の総合案内「ましこのコンシェルジュ」。

  • 道の駅で配布している移住希望者向けのパンフレットなども充実。冊子は移住経験者の体験談が掲載されている。

道の駅ましこの役割の一つとして、オープン時から掲げられているのが『「住みたい」価値を提供する』ということ。道の駅ましこは当初より、益子町に住む人を増やすことも目的の一つにしている。道の駅の総合案内が単なる観光案内にとどまらず、「ましこのコンシェルジュ」と名付けられ、移住・定住のサポートを行っているのもその一環である。
「移住サポートセンター」では、前述のような「空き家物件の紹介」「就職・起業支援の情報提供」の他、「住まいづくり奨励金の申請受付」「子育て支援情報の提供」なども行っている。最近では、益子町の暮らしを体験したり、住まいや仕事を探したりするために1ヶ月間借りられる「お試し住宅」の予約も好評だ。
今後道の駅では、これまでの取り組みに加え、地域限定の旅行業の認可も取り、移住希望者向けのモニターツアーも企画している。神田支配人によれば「益子町には魅力的な暮らし方をしている人が本当に多い」という。モニターツアーを通して、そんな益子町の人々と移住希望者との交流を促し、一元的な観光では体験できないディープな町の魅力を伝えることが目的だ。

近年は道の駅ましこのように、自治体の移住相談や案内窓口になる道の駅も増えてきている。道の駅ましこは今年でオープン3年目。まだ取り組みは始まって間もなく、実際今後どれだけ移住者が増えるかはまだ未知数の部分もあるが、益子町の移住に関する月の平均相談件数が、道の駅オープン前の2倍になったという事実からだけでも、道の駅が移住者増加のために果たす役割には大いに期待できると言っていいのではないだろうか。